お知らせ, コラム

FFPWコラムvol.9「アメリカが培養肉の販売を承認・世界で2番目」

フードテック企業による培養肉や代替卵が食卓に近づいて来ています。

6月下旬にアメリカ農務省(USDA)が国内2社の培養肉の国内市場販売を承認しました。認可されたのは幹細胞から培養された鶏肉で、2020年に市場流通が認可されたシンガポールに次いで世界で2番目となります。

販売を承認されたのはカリフォルニア州のアップサイド・フーズ社(Upside Foods)とグッド・ミート社(Good Meat)で、グッド・ミート社はイート・ジャスト社(Eat Just)の系列企業です。ちなみに、2019年にシンガポールで承認されたのもグッド・ミート社の培養鶏肉でした。

これに関するインターネット上のニュース記事を探ってみました。

培養肉は、生きた動物や受精卵などから幹細胞を取り出し、専用容器の中でアミノ酸、脂肪酸、糖類、塩、ビタミン、ミネラルなど細胞が成長するために必要な成分を含む液体に浸して培養されます。成長は早く2、3週間後には使途に応じてチキンカツやナゲットや細切り肉、ソーセージなどに成形されます。

2社とも初期生産量は限定されていると発表しています。培養チキンは当面は特定のレストランにのみ提供される見込みで、より多くのレストランで使われるようになるには2、3年、もっと広く流通するには7年から10年ほどかかるだろうと記事の中で業界関係者がコメントしています。

生産コストに関しては2社とも発表を控えています。生産量が増えるにつれて生産コストは下がるであろうと言われていますが、それでも最高級のオーガニックチキンと同程度の価格になるのではないかと予想されるとAP通信の記事に書かれています。

▼US approves chicken made from cultivated cells, the nation’s first ‘lab-grown’ meat(Associated Press 2023年6月22日)
https://abcnews.go.com/Business/wireStory/us-approves-chicken-made-cultivated-cells-nations-lab-100274790

この記事では、世界中で150社以上の企業が、鶏肉だけでなく豚肉、子羊、魚、牛肉などの培養肉に強い関心を向けていると書いています。もはや止めようのない流れなのでしょうか。ただ、同じ記事にアメリカ人の成人の半分は培養肉に対する抵抗感を持っているという調査結果が載っています。

<日本における培養肉開発>

日本政府も培養肉開発の推進を図っており、日清食品、丸大ハム、伊藤ハムなど大手食品メーカーが既に開発に乗り出しています。

▼参考記事
・開発進む『培養肉』 普及するには何が課題に(NHK)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/475275.html

・培養肉は「怪しい肉」か「夢の食材」か、25年に日本の食卓開拓へ(日経クロステック)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02163/00005/

2022年9月15日付の日経クロステックの記事によれば、2022年6月に自由民主党の議員連盟が発足し、培養肉の法整備に向けて動き出した、とあります。

「世界では2025年前後に向けて、培養肉の上市(市販)が検討されている。今後、グローバルサプライチェーンになるなかで、国際標準規格の形成に日本が主導的に関わっていくことが大事だ」(上掲の記事より)

もうひとつこんな言葉もあります。

「日本を含む各国政府にとっての魅力の1つは、食糧問題の解決だ。培養肉は動物の細胞から培養するため、安定的に食肉を供給できる。」

これが農水省が畜産農家に牛の屠殺処分を推進している(牛の屠殺に補助金を出している)理由なのでしょうか?

ただ、培養液の高価格がネックとのことです。生産コストは決して安くありません。従来の肉を培養肉が代替するには「値段が高くても培養肉を選ぶ」消費者が増える必要があります。そのためのPR活動が今後増えて来るでしょう。

<代替卵開発競争>

肉に先立ち、人工的に作られた植物性代替卵が既にアメリカなどで流通していることはご存知でしょうか。

今回代替肉の販売を承認されたカリフォルニア州のイート・ジャスト社は、ヴィーガン(完全菜食主義者。肉や魚はもちろん、卵や乳製品、はちみつといったすべての動物性由来の食材を使った食べ物を取り入れない主義の人々)向けの植物性代替卵を市場販売しています。同じくカリフォルニア州のクララ・フーズ社(Clara Foods)も本物の鶏卵と全く変わらない人口卵を開発したと発表しました。

またカナダのバンクーバーを拠点とするフィクション・フーズ社(Fiction Foods)もヴィーガン向けの植物性代替卵を開発し、販売軌道に乗せようとしています(インターネット上の関連記事では2022年度内に流通見込みとあるので既に市場販売を開始している可能性があります)。

フランスでも植物性の卵は開発され、市場流通の前にレストランに供給されていています(2022年2月時点)。

カリフォルニアのイート・ジャスト社の植物性液卵(JUST Egg)は欧州食品安全機関 (European Food Safety Authority、略称:EFSA)の専門家委員会による主要成分(緑豆)の栄養価の評価を受け、承認されました。欧州委員会の審査を経て、EUでの販売が承認される見込みとあります(2022年10月時点)。

下記の日本語記事では上記の記事(AP通信の英文記事)に書かれているよりも早くに承認の見込みとなっていますが、何らかの理由で遅延したようです。

代替卵ジャストエッグはアメリカの他にカナダ、香港、シンガポール、中国、南アフリカ、韓国で販売されているとあります。

▼イート・ジャストの代替卵JUST Eggが欧州の安全性承認を取得 (2021/11/9)
https://foodtech-japan.com/2021/11/09/eat-just-4/

米イート・ジャストの代替卵JUST Egg(ジャスト・エッグ)の主要成分が、欧州食品安全機関(EFSA)の安全性承認を取得した。欧州委員会の審査完了後、同社は2022年半ばまでにヨーロッパでのJUST Egg発売を目指す。

JUST Eggは緑豆を主成分とする代替卵で、イート・ジャストの代表的商品としてアメリカ、カナダ、香港、シンガポール、中国、南アフリカ、韓国で販売されている。念願の欧州進出が実現すれば、同社の国際的な存在感がさらに高まることとなる。

イート・ジャストは2020年3月に欧州当局に申請書類を提出していた。EFSAは報告書の中で「緑豆タンパク質は提出された使用条件において安全である」と回答。これにより、同社の代替卵JUST Eggは、EFSAの栄養、新規食品、食品アレルギーに関するパネルで安全であることが承認された。(強調部は原文通り)

また、このような記事が見つかりました。代替卵ジャストエッグはアメリカのネット通販アマゾンで販売されていますが、発送先が日本の場合は購入できないとなっています(2023年3月時点)。

▼【2023年最新】次世代の卵『ジャストエッグ(JUST Egg)』は日本で購入できる? 開発会社や商品の特徴を調査
https://marushin-magazine.com/foodtech/just-egg/

また、こちらのサイトではジャストエッグの原材料が列記されています。

▼卵の価格高騰“エッグフレーション”中も定番のポジション! プラントベースエッグ「JUST EGG」
https://organic-press.com/world/world_report121/

原材料:水、分離緑豆たんぱく、圧搾キャノーラオイル、2%以下含有:脱水オニオン、ジェランガム、人参抽出物(色)、天然香料、ウコン抽出物(色)、クエン酸カリウム、塩、砂糖、タピオカシロップ、ピロリン酸四ナトリウム、トランスグルタミナーゼ、ナイシン(保存料)

販売価格に関しては、こう書かれています。

JUST EGGはリリース当初、$7.99で販売されていたが、今では半分にまで下がっている。

1本3.99ドルとして計算すると、日本円にしておよそ527円。1本あたり12オンス(355ml)入りなので、Mサイズの卵のおよそ7個分程度だと考えると、1個75円相当。オーガニックの卵とあまり変わらない価格だ。代替卵の開発は進み、多数の企業が参入してきている。今後、プラントベースエッグが卵の平均価格を下回る日は近いだろう。(上記の記事より)

日本の鶏卵価格の昨年以降の上昇を見ると、日本でも代替卵が承認され、市場に広がる日は遠くないのかもしれません。