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希望のたね vol.2 「〜自然農を通して出会う本当の自分、命の繋がり〜 豊かな暮らし 熊野うたま」

今回は、世界遺産・熊野三山の1つ、熊野本宮大社がある本宮町で展開中の、「豊かな暮らし 熊野うたま」を紹介します。

場所は、熊野本宮大社にほど近い大居(おおい)地区。19年前に同町に移住した山下裕子さんが中心となり、全部で7反ほどの田畑で米や麦、野菜などを自然農で育てています。

この春、様々な体験や交流のためのスペースも開設。温めてきた構想の実現に向けて前進中の裕子さんにお話を伺いました。


 ◉ベースにあるのは“本当の自分との出会い”

4年前に活動を始める前は、カウンセリングの仕事をしていました。心に葛藤を抱える人達と接する中で大切にしてきたのは、“本当の自分との出会い”を実感してもらうことでした。

ただ、室内でマンツーマンで行うカウンセリングでは、本当の自分に出会うきっかけをつくるのは難しいのではないか、と疑問を抱くようになっていったそうです。

“脳”で考えて答えを見つけようとするのではなく、腹の底から自分の答えが出てくるようにするには“農”が必要。

そう確信したとき、家の目の前に広がっていた耕作放棄地が目に留まりました。

「ここを田畑にして、作物を自分達の手でつくり、自然との繋がりによって、本来の自分と出会える場にしよう」

鮮明なイメージが沸き上がりました。

土地の持ち主を探し出し、その地を使えるようになってからは、草を刈り拓いたり、溝を掘ったりと目まぐるしい日々が続きました。


◉荒れた耕作放棄地を自然農の畑へ

それまで農業の経験はほとんどなかったものの、「この地球上に1つの命として生きる自分に向き合うためには自然農が良い」。裕子さんの思いに共感した人達が手伝ってくれたり、地域の診療所の医師をしている夫の成人さんも、仕事が休みの週末は協力してくれたりして、徐々に田畑が形になっていきました。

農薬や化学肥料は使わず、土壌改良のため、米ぬかや生ごみ堆肥などを使い、土の乾燥や草が生い茂るのを防ぐため、雑草を刈って、田畑に敷いています。やがてそれは良い肥料となります。季節ごとの農作物の種蒔きや収穫、様子を見て回って必要な世話をするなど、午前中と午後に数時間ずつ、田畑に足を運びます。

「自然農では本当によく野菜の様子を見て、寄り添ってあげないと、数日のうちに急に元気がなくなってしまうことがよくあるんですよ」

作物を育てるのは、基本的に種をまくところから。苗をもらって育てることもあり、苗からだと育ちやすいというメリットはありますが、できた種を翌年蒔いても、同じようには育たないことが多いそうです。


◉土や草に触れてわかる、人も自然の一部だということ。

「自然農では自然の営みが生み出す恵みを頂きます。自然は予測できないことの連続で、簡単ではないと日々感じます。同じ作物でも年によって育ち方も、起きてくる障害や被害も違ってきます」

動物よけの囲いはしていますが、猿やシカ、キジ、スズメ、アナグマなど、作物をねらう様々な動物がいて、収穫前のじゃがいもがすっかりなくなってしまったこともありました。

人知を超えた自然を前に、自分や人間がいかに小さな存在かを痛感することがありますが、それによって、大きな視野から自分自身を見つめることができ、様々な思いから解放され、本来の自分と出会うきっかけになるのかもしれません。

さらに、土に触れることで、自分も1つの命として、自然界の命の繫がりの中で生かされているという安堵感や心の平穏が生まれるのではないでしょうか。

「人も自然の一部。自然にふれることで、ありのままの自分に立ち返ることができると思います」

と裕子さん。

トイレも、電気や水が不要で排泄物を土に還してくれるコンポストトイレを田畑のすぐそばに置いて利用しています。そんなことからも、人も自然の一部であり、自然の循環の中にいることを実感できるのでしょう。

古より、“蘇りの地”とされてきた熊野には、全てのものを受け入れる寛容さがあります。

「熊野うたま」には、自然に還ること、本来の自分に出会うことを全ての人が体感できる場でありたい、という思いが込められています。

「“うたま”というのは、“う・た・ま”という3つの音を頭文字にして、1人1人が自分にとって大切なものを想像してもらえたら。私は“(ま)ことの(た)ましいが(う)まれる”という思いを込めています」

と裕子さんは話していました。


◉体験や交流を目的とした“集う家”が完成!

「自然農を実践する場をつくるとともに、人々の交流や体験のための拠点となる“集う家”も初めからイメージとしてあったんです」

という裕子さん。

“楽園”を意味する“まほろば”の古語、「熊野うたまのまほらま」と名付けられたスペースをこの春開設しました。さっそく映画の上映会やライブパフォーマンスなどの催しが開かれ、会場いっぱいの人で賑わいました。


 ◉オーガニック子ども食堂をスタート

そして、月1回のペースで、“大人も参加できるオーガニック子ども食堂” もスタート。

健康や環境への影響が懸念される農薬や添加物に頼らない食材を育ち盛りの子どもたちには食べてもらいたい、という思いからです。

今、全国的にオーガニック(有機)給食に取り組む自治体が増えており、和歌山県でも市民や行政、農家など関心ある人たちの輪が広がりつつあります。ただ、有機農作物を作っている人が少なかったり、一度にたくさんの量を用意するのが難しかったりして、進めていくには課題も少なくありません。

そこで、定員制の定期イベントにすれば有機の農作物で提供できるのでは、と考えました。

材料は主に、自分たちで作った自然農の野菜や、寄付してもらった野菜などの食材。定員は裕子さん・成人さんご夫婦を含めて最大20人ほどで、参加者も一緒に料理し、子ども達も野菜の収穫や料理の下ごしらえなどを手伝います。

取材に伺った日は3回目で、メニューは和風ハヤシライス。手作りの味噌とケチャップをベースにしたユニークな味わいで、付け合わせは収穫したての夏野菜を塩こうじで和えたサラダと新じゃがのフライドポテトでした。

1回目は旬の野菜を使ったメニューや大豆のナゲット、赤米入りご飯など、2回目はスパイスと米粉で作ったルウで煮込んだ地元の鹿肉や野菜入りのカレー。

毎回参加しているという近くに住む子育て中のお母さんは、

「子どもたちが安心して食べられるものを頂けてありがたいです。しかも、子どもは無料、大人もとても低価格で、本当に良いの? というくらい。参加した人どうしでおしゃべりできるのも楽しいし、情報交換したり、人と繋がれたりする貴重な場所になっています」

田畑の開墾から活動に参加している裕子さんの友人の女性は、

「子ども食堂には2回参加しましたが、2回とも地域に滞在している外国の方が来られていて、異文化交流ができ、面白かったです」

と、すでに“固定客”も。

裕子さんも、

「ここに来た人達の笑顔が見られたときに、一番やっていて良かったな、と思いますね。また、ここで出会った人達が繋がって、新しいことが始まったりすることもあって、そんなときにとても嬉しく思います」

と話していました。


◉これからも活動を続けていくために

草に覆われた荒地を耕し、人々が集う場へと、まさに一から切り拓いてきた裕子さん。今後も活動を継続していくためには、経済的な面も含め、持続可能な運営が必要だと感じているそうです。県の援農制度なども利用しながら、  作業を手伝ってくれる人や自然農を体験したい人など、関わってくれる人の輪を広げていきたいと言います。

壁にぶつかった時には、原点に立ち返って自分が何のためにやっているのか見つめ直すようにしています。

「集う家ができたので、これからそこを拠点に、色んな人達が出会い、交流が生まれる場にしていきたい。特に若い人達に食べ物や環境のことに興味を持ってもらえるような機会をつくっていきたいと思っています」

人々の“本当の自分との出会い”をサポートしてきた裕子さんが今、自分自身の目的地に向かって歩んでいる姿に、ふと往時の熊野詣の旅人の姿が重なりました。

フェイスブックに『豊かな暮らし 熊野うたま』のコミュニティグループがあります。 興味のある方はのぞいてみてくださいね。グループに参加したりコメントしたりできます。 https://www.facebook.com/groups/4004475539584810