コラム

FFPWコラムvol.5「体験記:熊野で林業について学ぶ」

「体験記:熊野で林業について学ぶ」 文:木下由季(FFPW事務局スタッフ)

2021年11月の日曜日に、新宮市熊野川町で林業の現場を見学するという珍しいツアーに参加しました。

秋の熊野「林業の音めぐり・人めぐり」というテーマで、現地の林業の様子を見聞きし、林業に関する話や熊野での暮らしの話を関係者からお聞きするという企画で、主催は「熊野森林学習推進協会ーKAFFEー」でした。

KAFFE(Kumano Association for Forest & Forestry Education)
http://kumano-kaffe.jimdo.com

KAFFEは、和歌山県の熊野地域で「森林・林業体験プログラム」の企画と実践を行っています。

「間伐作業」や「複層林探検」を中心とした体験を通して、自然と人とが直接に向き合う「林業」の現場に触れ、人と自然の関係、自然と社会の関係、その中で成り立つ山村の生活を理解してもらうことが、森林文化の健全な維持と保全に繋がると考えています。

熊野の森で地域の人々と交流しながら過ごし、自然と文化に触れ、森の手入れをして木々と対話する、そんなKAFFE独自の「森林体験プログラム」を通じ、林業・森林への理解促進を目指します。

(「熊野森林学習推進協会について」より)

さて、前日は雨が降り風も強く、主催者をやきもきさせていたそうですが、当日は風のない晩秋の晴天に恵まれ、野外活動に申し分ない条件となりました。

和歌山駅前を出発したツアーバスは、新宮市の道の駅・瀞峡街道熊野川を目指して走り、11時前に到着しました。そこでワゴン車2台に分乗し、熊野川町森林組合の田中組合長の御案内で作業を見学できる現場へ向かいました。

林道は舗装されていましたが、車内から見るとワゴン車が道幅いっぱいに見えるほどで、車同士が対向できる余裕はありませんでした。幸い前から来る車と出会うことも無く、山の稜線近くまで一気に上り、20分ほどで目的地に着きました。

そこは「皆伐」(全ての木を切り倒すこと)が行われた跡地でした。開けた緩やかな斜面には伐採を行った時の作業道がついていました。そこから向かいにはひたすら山の峰が幾重にも連なっているばかりで、建物類は全く見えませんでした。

この地域は和歌山県から水源かん養保安林に指定されているので、山主は固定資産税の免除を受けている代わりに、皆伐したら2年以内に植林を行わなければいけないとのことです。

保安林とは、水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成等、特定の公益目的を達成するため、農林水産大臣又は都道府県知事によって指定される森林です。保安林では、それぞれの目的に沿った森林の機能を確保するため、立木の伐採や土地の形質の変更等が規制されます。

林野庁サイトより
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_2.html

この小さな苗が60年ほどかけて大きくなる。

熊野川町森林組合長の田中さん。

見晴らしの良い斜面でお弁当を食べた後、私達はそこから林の中へ入って行く舗装されていない道を歩いて行きました。

林の中にチェーンソーの音が聞こえて来て、切り倒された木が搬出用に並べてある場所がありました。

さらに先へ行くとチェーンソーの音が近くなり、音が止んだ後しばらくして、木の倒れる大きな音がしました。

坂道を曲がると、倒したばかりの木の大きな枝を作業員さんがチェーンソーで切っているところでした。

本当の見どころはその後でした。

作業をされていた方は後ろの重機に乗って近づいて来て、重機の先に装着した林業用の機械(プロセッサー)で倒れている木の幹をつかみ、つかんだと思ったら、機械が左右に幹の上を移動させ、あっという間に残りの枝を払い落して均等な長さで切断しました。かかった時間は1分ほど。

切りたてのヒノキの匂いが漂う中、その速さ、効率の良さに一同ポカンと見入っていました。小学生が見たらさぞ喜びそうな迫力ある眺めでした。残念ながら参加者の殆どが中高年でしたが、それでもみな、十分感心していました。

見学させてもらったのは皆伐ではなく「間伐」(間引くための伐採)作業でした。

もう1台の重機で林の中に作業道を切り開きながら、2人組で作業して行きます。この林はまだ皆伐するほど育ち切ってはいないのでしょう。

作業をされていた方は20代でこの仕事に就かれ、現在40代に入っているということでした。伐採するエリアの指定はあるものの、仕事の進め方については任されているので、やりがいを感じるということでした。

昔の作業風景の写真。

作業風景見学の後は、すぐ近くにある一遍上人名号碑を見てから車道に戻り、外材が大量に入って来た現在の林業とそれ以前の違い、さらに昔の戦前・戦後すぐの頃の林業の姿についてお話を伺いました。

車や機械が現れる前の林業は全て人力と手作りの道具で行われていました。山から下ろした材木は筏にして下流へ運ばれ、それに使う道具を作る専門の人々もおり、当時の林業には多くの人々が関わっていました。

資料の一つに木材価格の移り変わりがありました。

昭和54(1979)年平成3(1991)年平成21(2009)年
杉   (1㎡当たり市場価格)40,100円22,700円10,000円
ヒノキ (1 ㎡ 当たり市場価格)95,400円65,500円14,300円
伐出賃金(1日当たり)10,000円13,000円13,000円

貴重な学びの体験を終え、木の国の林業の変遷と今後に思いを巡らせつつ、山を下りました。

「熊野森林学習推進協会ーKAFFEー」では、2022年1月29日および3月19日~20日にも熊野の森でのイベントを計画しているとのことです。募集はKAFFEのサイトで告知されますので興味のある方はチェックしてみてください。

熊野森林学習推進協会ーKAFFEー
http://kumano-kaffe.jimdo.com