コラム

FFPWコラムvol.4「国連食料システムサミットでは何が決まったのか」

前回の記事には国連食料システムサミット開催について記載しましたが、サミットでは具体的にどのような話が交わされたのでしょうか。

何週間か経過してもめぼしい関連記事は無く、内容については公式発表の文書などに頼るしかありません。農林水産省の国連食料システムサミットの専用ページhttps://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/FAO/fss.html)に、このサミットのテーマや国連事務総長による議長サマリー及び行動宣言が掲載されています。

国連食料システムサミットの5つのテーマ

  1. 質(栄養)・量(供給)両面にわたる食料安全保障
      食料の安定供給、食料の安全保障の確立
  2. 食料消費の持続可能性
      食育、健康的な食事、食品ロス削減、地産地消
  3. 環境に調和した農林水産業の推進
      農林水産業が環境に及ぼす影響への対処(含デジタル化)
  4. 農山漁村地域の収入確保
      女性や若者を対象とした農山漁村での雇用創出と生計の安定
  5. 食料システムの強靭化
      新型コロナを踏まえた食料サプライチェーンの強靭化

いずれも重要なテーマと言う事はできるでしょう。

ただ、このサミットは開催前から大きな批判のうねりを巻き起こしました。世界中で200以上の市民団体がボイコットを表明し、6月迄に300人以上の科学者が賛同署名しました。開催後まで引き続き1,006団体・個人が署名(10月14日時点)をしています。

さらに国連内部からも、コロナ禍に関連して発生した食料危機に対する実質的取り組みが提供されなかったことなどに対する批判の声が上がり、スポンサーや参加者からも批判の声が出たということです。

<テクノロジー主導型の農業を推進>

国連事務総長による議長サマリー及び行動宣言には、飢餓の撲滅達成、持続可能な食料生産システム、人々、地球、繁栄のための解決策に焦点を当てる、といった抽象的な言葉が並んでいます。「科学とイノベーションに投資し」「SDGs を実現するために、食料システムを適応させなければならない」「人口増加に対応可能な食料供給」等の言葉もあります。

2030年のSDGs達成に向け、①全ての人々への栄養の供給、②ネイチャーベースの解決策の推進、③公平な生計、ディーセント・ワーク及び力のあるコミュニティの推進、④脆弱性、ショック、ストレスに対する強靱性の構築、⑤実施手段の支援)の5つのアクションが必要であることが明らかとなった、と書かれています。これだけでは具体的な内容はよくわかりません。

国連は2017年の国連総会において、2019年~2028年を国連「家族農業の10年」として定めたはずです。なのに、このサミットでは企業とつながったテクノロジー主導型の農業を推進しようとしています。データ収集や遺伝子工学(ゲノム編集技術等)の重要性が強調され、小規模・家族経営が多数派の現状から、大規模・企業経営、しかも大型機械に依存する農業を推進しようとしています。このため、開催前からサミット自体が多国籍企業に乗っ取られたという批判が挙がっていたのでした。

<サミットで発表した日本の役割>

このサミットで日本政府はどのような発表を行ったのでしょうか。

農林水産省の国連食料システムサミットの専用ページには、菅首相(サミット開催当時)のスピーチおよびビデオメッセージ、そして『我が国の目指す食料システムの姿』(PDFファイル)などが掲載されています。

これらを参照すると、日本政府の示した方向は2021年5月にまとめられた『みどりの食料システム戦略』そのままだとわかります。各ファイルは以下のサイトから閲覧できます。

農林水産省の国連食料システムサミットの専用ページ(再掲)
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/FAO/fss.html

菅首相(当時)のステートメントより抜粋します。

我が国は、次の3点を重視しながら、世界のより良い「食料システム」の構築に向けて取り組んでまいります。

第一に、「生産性の向上と持続可能性の両立」です。このための鍵となるのは、イノベーションやデジタル化の推進、科学技術の活用です。我が国は、5月に策定した「みどりの食料システム戦略」を通じ、農林水産業の脱炭素化など、環境負荷の少ない持続可能な食料システムの構築を進めてまいります。

第二に、「自由で公正な貿易の維持・強化」であります。食料の輸出入規制は、真に必要最小限なものに抑制されるべきであり、また、恣意的ではなく、科学的根拠に基づいたアプローチがとられるべきと考えます。我が国は、食料分野においても、自由で公正な貿易の旗振り役を、引き続き務めてまいります。

第三に、「各国・地域の気候風土、食文化を踏まえた」アプローチです。 我が国は、現場に赴くこと、その土地の方々との対話を大切にして、その地域に合った取組を進めてまいります。

日本政府が具体的に何をして行くつもりなのかは、『我が国の目指す食料システムの姿』(PDFファイル)の中に記載されています。

この動きは家族農業を大切にしたいと願う私達にとって大きな逆風です。小規模・家族経営の従来型農業ではなく、大規模・ハイテク駆使・輸出志向を推進しようとしています。

<参考資料と動画 国連食料システムサミットと市民社会>

家族農林漁業プラットフォームジャパン(FFPJ)のオンライン講座第7回が『国連食料システムサミットと市民社会』というテーマで10月28日に開催されました。講師は関根佳恵さん(愛知学院大学准教授/FFPJ常務理事)です。FFPJのユーチューブに動画が公開されています。

資料および講師プロフィールはこちらにあります。
https://www.ffpj.org/blog/20210908

FFPJオンライン連続講座 第7回 国連食料システムサミットと市民社会
https://www.youtube.com/watch?v=H9orVxVHZSE

<関連書籍の御案内>

農山漁村文化協会(農文協) ブックレット『どう考える?「みどりの食料システム戦略」』
農水省が策定した「みどりの食料システム戦略」を受け、農文協から表題の書籍(定価1,000円+税)が9月25日に発刊されました。執筆者には、FFPJ代表の村上真平さん、常務理事の関根佳恵さん、FFPJ団体会員「NAGANO農と食の会」の吉田太郎さんが含まれます。

内容およびご注文はこちらから>https://www.ffpj.org/blog/20211018