コラム

FFPWコラムvol.8「ブームになりつつある陸上養殖」

FFPW事務局の木下です。個人的に日本消費者連盟の会員になっています。日本消費者連盟と『遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン』の共催オンライン講座が昨年からシリーズで開催されており、何度か視聴しています。

先月、シリーズ第14回『 ゲノム編集魚の問題点に迫る 〜拷問養殖? 陸上養殖?〜 』がありました。この講座は上記2団体の会員以外には有料で配信されていますので、録画や資料を皆さんと共有することはできませんが、盛りだくさんだったお話の内で特に印象に残り、かつ衝撃的だった陸上養殖に関する内容をご紹介したいと思います。

「陸上養殖という言葉をお聞きになったことはありますか? 私はこの連続講座で初めて知りました。陸上養殖が国内でどんどん進められようとしていることも。

日本では近年「育てる漁業」というイメージで養殖がPRされています。現実には言葉のイメージとは違い、餌の大量輸入、抗生物質等の多用、周辺の海の汚染のおそれ、など様々な問題をはらんでいます。それでも天然の漁獲高が世界的に減少している中、魚介類の養殖は日本の魚業の中でシェアを増しています。

養殖といえば、入江など沿岸水域に筏や生け簀を並べて行うものというイメージが定着しています。これを海に直接接していない場所で行うというのが陸上養殖です。人工的にプールを作り、そこで飼育することです。大きなプールが必要であり、海水魚やエビなどを飼育するとなれば大量の海水が必要です。なぜ、そこまでして陸上養殖に向かうのでしょうか。

ここで「ゲノム編集」が出て来ます。

現在、日本で市場に流通しているゲノム編集魚は2種類あります。いずれも、リージョナルフィッシュ社が開発した「可食部増量マダイ」と「高成長トラフグ」です。リージョナルフィッシュ社は京都市(京都大学内)に本社を置く京都大学発のベンキャー企業です。同社は陸上養殖を行い、ネットショップで販売しています。(参考:リージョナルフィッシュ社のオンラインサイト>https://regionalfish.online/

その養殖施設は日本海側の関西電力の敷地内に設けられています。また、「ゲノム編集トラフグ」は京都府宮津市のふるさと納税返礼品に指定されています。

同社では現在、魚類およびエビやイカのような無脊椎動物20品種の品種改良を同時に進めており、今後2~3年で市場に出す計画とされています。国が推進しているイノベーション戦略の一部なのです。国や都道府県から研究予算の支援金が出ており、そこに参画する企業が増えています。

まず、ゲノム編集魚は何が問題(懸念されること)なのでしょうか。これらの魚はどのように開発されたのでしょうか。

①「可食部増量マダイ」
筋肉の成長を抑制するミオスタチン遺伝子を破壊することで早く大きく成長する。急速な筋肉の成長のため、脊椎の成長に問題が発生し、ゆっくり泳ぐことしかできない。成長ホルモンIGF-1が増え、がんになりやすい。

②「高成長トラフグ」
食欲を抑制するレプチン受容体遺伝子を破壊することで体重は増えやすくなるが、血糖値や肝臓に異常が起きやすい。糖尿病など病気になりやすくなることが考えられる。レプチン受容体は食欲以外の機能にも関わり、食欲以外の機能も損なわれる。

このように開発された品種であり、健康体とは言えない可能性があります。肉の部分だけを食べるのだから仮に奇形や内臓の異常があっても大丈夫と言えるのでしょうか。

運動能力、生殖能力、恒常性維持という生命の基本機能が損なわれる、そして生命力が弱く、生け簀の中で死にやすいとのことです。(ゲノム編集すること自体に、狙ったDNA以外を破壊し予想外の変異が生まれるリスクがありますが、それについてはここでは省略します。)

次に陸上養殖の問題点(懸念されること)を挙げます。

一番の問題は「規制がない」ことです。現在、陸上養殖には漁業法も適用されず、水産業として規制もモニターもありません。水産庁は今年度から届け出制にしましたが、届け出は規制とは違います。

陸上養殖の利点を「生け簀から魚介が流出して自然界の種と交雑するリスクが防げる」と言いますが、自然災害などの発生時に流出が完全に防げるものではありません。

陸上養殖には大量の海水が必要で、施設に新鮮な海水を常に循環させる必要があります。つまり薬物や餌や糞で汚染された「排水が出ます」。浄化して排出しているかどうかわかりません。

日本各地に陸上養殖場が急速に増えているとのことですが、排水のモニターがされているかどうかはわかりません。沿岸漁業にも大きな影響を与えてしまう可能性があります。宮津市では魚が逃げないように網が3重になっていることは強調されているけれども水の浄化施設については何の言及もありません。

沖縄県では2020年、2021年に養殖エビが感染病で大量死し、汚染水が海に廃棄されました。2020年に発生した大宜味村では養殖事業の再開申請書を不承認とし、事業者との間で訴訟問題に発展しています。(関連記事リンクを下に掲載)

従来の漁業者の管轄である沿岸の海上を避けることにより、漁業組合と交渉することなく養殖を始めることが出来ます。そのことが、陸上養殖の強みとなっているのではないでしょうか。地元の漁業組合が知らないうちに思いがけない場所で陸上養殖が始まっているかもしれません。

日本ではまだゲノム編集魚に対する消費者の抵抗が強く、割高でもあり、国内での販売は容易ではありません。そこで国の補助金を受けて国外に進出し販路を開こうという動きがあります。また学校給食などに導入しPRに利用しようという動きもあります。

地域でできること
・知らない間に付近に陸上養殖場が造られていないか調べる(海から離れた内陸部でも可能)
・地元漁業者に情報を知らせて、県に対してバイテク企業を誘致しないよう共に声を上げる
・学校給食でゲノム編集食品を使わないように要望する(条例制定まで行かなくても議決で採択だけでも有効)

これらに関係するウェブ上の記事などのリンクを以下に記載します。

リージョナルフィッシュ社の公式サイトより
スマート陸上養殖(について)
https://regional.fish/farming/

○ 陸上養殖に殺到する企業
三井物産、丸紅、伊藤忠、三菱商事、マルハニチロなどの大手がサーモンの陸上養殖に乗り出す。「SDGsビジネス」
https://digital.asahi.com/articles/ASR3222BZR2FULFA00J.html

○ NTTやメガバンク系のベンチャーキャピタル等、多数の企業が資金調達に参加しています。
リージョナルフィッシュ、シリーズBで約20.4億円の資金調達を実施(2022年9月5日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000060432.html

○ 水産庁
陸上養殖業の届け出について
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/taishitsu-kyoka.html
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/attach/pdf/taishitsu-kyoka-9.pdf

○ 内閣府資料 (国のバイオ戦略)
https://www8.cao.go.jp/cstp/bio/community_sanko_r3.pdf

○ 沖縄県の陸上養殖エビに関する記事
・エビ壊死症、国内初確認 沖縄・大宜味村の養殖場(2020年10月19日/日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65197330Z11C20A0CR8000/

・病原菌、養殖場から流出の可能性も 沖縄県、沿岸のエビやカニなどの調査へ(2020年10月21日/沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/650948

・沖縄でエビ大量死の養殖場、観光名所の海に排水 病原菌含む恐れ(2020年10月22日/沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/651532

・クルマエビ9割以上が死滅 宮古島漁協の養殖場 出荷を見送りへ(2021年12月2日/沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/872478

・給食業界初!地球にやさしく丸ごとおいしい陸上養殖された「幸えび」を採用(2023年2月2日/沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1097467

・エビ養殖業者が大宜味村を提訴 感染症で予告なく事業取り消したと主張(2022年3月18日/琉球新報)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1487360.html

<関係ブックレット>
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンでは、リーフレット「食べてはいけないゲノム編集食品」や、ブックレット「増補改訂版・新しい遺伝子組み換え ゲノム編集食品の真実」を発行しています。詳細および購入をご希望される場合は下記サイトへお問合せください。

・リーフレット「食べてはいけないゲノム編集食品」
https://gmo-iranai.org/?p=3852

・ブックレット「増補改訂版・新しい遺伝子組み換え ゲノム編集食品の真実」
https://gmo-iranai.org/ngc/?p=101
https://nishoren.net/new-information/16278