希望のたね

希望のたね vol.1 「みかんのもりプロジェクト」

~地域の豊かな未來を見据えた取り組みや名案は希望のたねです~

既に実施している取り組みのほか、活動の輪を広げるための呼びかけ、また、地域の課題解決に繋がるような名案・構想などなど、かぞプラ会員の皆さまから募集した「希望のたね」を掲載するコーナーです。

アイデアをお持ちの方は、原稿をメール(ffpw2028@gmail.com)でお送りください。ここが希望を共有する場になれば嬉しいです。(※事務局から事前インタビューさせてもらうことがありますので、ご了承ください)

それでは、コーナー初の「希望のたね」をご紹介します!


海南市下津発「みかんのもりプロジェクト」

代表 森 賢三

令和4年6月、海南市下津にて「みかんのもりプロジェクト」が本格的にスタートしました。本プロジェクトは家族農林漁業プラットフォーム和歌山(以下、「FFPW」という)の活動方針と非常に重なる部分が多いとともに、複数地域と連携することでさらなる相乗効果が期待できることから、FFPWの会員の皆様に本プロジェクトの概要を紹介し、連携によって期待できる効果をご提案します。


1.みかんのもりプロジェクト

〇経緯
2019年2月に海南市下津は「下津蔵出しみかんシステム」として日本農業遺産に認定されました。しかし農業遺産は認定されることがゴールではなく、過去からの遺産を継承しつつも、未来に残る遺産を今構築していくことが重要です。すなわち、認定がスタートであり、今私たちが何をするべきかについて検討を重ねてきました。そして以下の二つの課題に注目し、両者を融合させた取り組みを進めようとしたのが本プロジェクトです。


課題①:後継者問題
どの地域にも共通する課題ですが、海南市下津においても後継者問題は深刻です。そしてその課題は、地域だけでは解決できず、地域外から「新しい血(新規就農者)」の受け入れが必須です。しかし、みかん等の果樹園は野菜などの他の農業と比べ参入障壁(スキル・設備・園地など)が大きく、希望者がいてもすぐに農業を始めることができません。このため、

 地域全体で希望者を受け入れ・育成し・独立させるシステムの整備(プランA)

を行うこととしました。


課題②:6次産業への取り組み
農業遺産では、認定地域での6次産業への取り組みが求められています。しかし海南市下津では加工品の製造販売の実績が乏しく、今からジュース等の従来の加工品の製造販売に力を入れても先進地に追い付き追い越すことは非常に困難です。ならば、全く新しい視点でのビジネスに取り組んだ方がインパクトは大きいと考えました。

一方、課題①では、新規就農希望者が一人前になったタイミングと、みかんの畑が耕作放棄地になるタイミングがピタッと一致しないことが課題です。そして2年間、人の手が入らなかったみかんの畑は元の畑に復元することができません。このためこの時間差を埋める対策が必要となります。

それが「みかんを生産しない」で畑(みかんの木)を守る方法です。すなわち7月中旬に「青みかん」をすべて落としてしまいます。

 青みかんに経済的価値を生み出し、新たな収入源(新ビジネス)を確保(プランB)

この新たな収入源が、希望者の研修期間の収入源の一部を支えます。


〇プロジェクトの概要

  400年前から山全体に広がる石積みのみかん畑
  この壮大な景観が後継者問題で失われようとしている今
  畑ではなく地域の貴重な資源(森)として守っていこう

このような考え方のもと、前述の「プランA」と「プランB」を一つのプロジェクトとしたのがみかんのもりプロジェクトです。

そして本プロジェクトは、和歌山県『農業農村活性化支援モデル事業』(令和4年~6年度)に認定されました。


〇プランAの特徴
・複数の農家で受け入れ
プロジェクトの図中「地域の農家」は複数の農家が受け皿となります。本プロジェクトでは小畑地区の共同出荷組合である「マルコ柑橘出荷組合」(組合員10軒)が受け皿です。受け皿に期待することは、農繁期のアルバイトに研修生を優先して採用してもらうことや、農閑期においても施肥等の力仕事などに単発的でも研修生を使ってもらうこと、そしてアルバイトとして受け入れた際には様々なスキルを先生として教えてもらうことです。

そして研修生が独立した際には、使用していない農機具等を提供してもらうことや、減反する畑を提供してもらうことなどです。

また研修生が独立したのちは、生産したみかんはマルコ柑橘出荷組合で販売をサポートします。


・研修期間は2~3年
研修期間は2~3年を想定しています。

「新しい血」を地域外から受け入れた場合、その人たちが地域になじめるかどうかが重要です。ある程度の期間を設けることにより、お互いの信頼を育みます。そして「お前だったらこの畑を貸してあげるよ」と言ってもらえるところまでいけば、定住に大きく前進すると考えます。

他にプランAでは、地域の受け皿の核となるマルコ柑橘出荷組合から、小畑地区全体にこの取り組みを広げていく戦略が必要となります。


〇プランBの特徴
・地域活性化に貢献
青みかんを加工するための方法は複数存在しますが、例えば、「真空乾燥法」によって加工した場合、「青みかんパウダー」「青みかん精油」「青みかんウォーター」の3つの一次加工品が得られます。これらの一次加工品はそのままでも商品として販売可能ですが、さらにこれらを素材として二次加工品を新しい商品として開発することが可能です。

例えば「青みかんパウダー」は昔より漢方の材料として使われてきたように栄養素の塊です(詳細な成分分析は令和4年度に実施予定)。そして地域固有のオリジナル食材です。

この食材を当面は海南市内の商店や事業者に優先的にサンプル提供して新しい商品を生み出していただき、「青みかん関連新商品」として力を合わせて販売していけたらと思っています。


・研修生の収入源として
研修期間は2~3年と述べましたが、研修生にとってはその期間内の収入がどの程度確保できるかが不安です(特に農閑期)。

本プロジェクトでは、畑を維持するための作業をできる限り少なくすることを目指しますが、それでも草刈りなどの作業は必要で、それらの作業を研修生にしてもらいます。そして本プロジェクトの収益を研修生に還元します。それでも農閑期の収入はまだ不十分と考えており、複数の収入源を提供できるようさらに検討を進めます。

研修生には農作業だけではなく、青みかんビジネスにも主体的にかかわってもらい、どのように販売ルートを広げ、自分たちの収入を伸ばしていくかを考えてもらいます。このような経験を重ねることにより、これからの農家は、単に農産物を生産するだけの農家から、その農産物にどのような付加価値をつけ、どのように販売していけばよいのか、消費者までつながる目線をもった農家を育てていきたいと考えます。

他にプランBでは、販売ルートの開拓として、海南市内の事業者に限らず、県内の他の事業者や、全国規模で展開している企業等への働き掛けも同時に進める必要があります。


2.他地域との連携による相乗効果

ここまでみかんのもりプロジェクトの概要を読んでいただき、我が地域は柑橘の栽培はしていないから関係ない、と思われた方もいるかと思います。

しかし、和歌山県内で柑橘以外の農作物を主流としている地域において、本プロジェクトのプランAかプランB(あるいはその両方)に共に取り組んでもらうことで、さらなる相乗効果が期待できるのです。

FFPWの会員の皆さんとは、以下に示すアイデアについて、その可能性を議論しながら、和歌山全域の農業が元気になる道筋を切り開いていけたらと思います。


〇プランAの可能性
・有望な若者のリクルート戦略
新規就農者には地域の未来を託すことになるので、とても意欲のある若者をリクルートしていきたいところです。しかし、農業に取り組みたいと思っている意欲ある若者は、全国の農業から自分に合った場所を探そうとしています。彼らのアンテナに、「和歌山県の農業」あるいは「海南市下津の農業」が届かなければなりません。

海南市下津では、以下のポイントを中心に今後情報発信をしていきたいと考えています。

 ・日本農業遺産認定の地域
 ・地域に新規就農希望者の受け皿を用意
 ・青みかんビジネスという新しい取り組みを推進

しかし、最終的には「みかん農家」という限定された仕事(青みかんビジネスに継続的に取り組むという選択肢も可)であり、農業の道には進みたいけれども自分に合った農業が何かはまだわからない、といった若者も多いと思います。

県内の他地域において同様の受け皿が複数整ってきたなら、若者に対するリクルート活動(情報発信など)を共同で取り組み、まずは「和歌山」という選択肢を採用してもらい、和歌山に行けばいろんな農業の話が聞けて、その中から自分に合った農業を見つけることができる、と思ってもらうことが重要と思います。


・研修期間の収入確保
新規就農に関する支援メニューは他にもあり、それらのメニューを同時に活用するという選択肢も可能と思いますが、研修期間の生活に必要な収入は自力で確保することを目指した場合、どうしても農閑期の収入の落ち込みが大きな課題となります。

そんな時、和歌山には多様な農業が存在することが大きな強みとなります。すなわち農作物の違いによって農繁期は異なってきます。ある地域の農繁期は別の地域の農閑期であったりします。

農繁期の異なる二つの地域間において、お互いの研修生を受け入れることで、単なるアルバイトではない農業を目指す卵を受け入れることで作業効率も高まるし、研修生にとっても収入以外にも、他の農業を経験することで自らのスキルを高めることや、進路の見直しも可能となります。

そしてこのような関係が二つの地域間だけではなく、複数の地域で相互乗り入れできればさらなる可能性が広がります。


〇プランBの可能性
本プロジェクトでは、新規就農の取り組み(プランA)と同時に新規ビジネスへのチャレンジ(プランB)に取り組もうとしているのは、新たなお金を動かす仕組みを取り入れていくことで、プロジェクト全体が活性化していくと考えるからです。ですから他地域においても主たる農作物やその周辺に存在する未利用資源(規格外農作物など)を使ったビジネス展開をセットで考えていただきたいと思います。

しかしこれらの取り組みは単独でチャレンジする場合、販路の開拓などを独力でしなければならないなどハードルが高くなります。ですから、青みかんビジネスで突破口を開くことにより、他の地域でも有効に活用してもらえるアイデアを提案します。


・精油(オイル)の可能性
精油は様々な植物から抽出することが可能で、かつ和歌山は植物の種類の多さも際立っていることから、他の地域の精油のプロから「和歌山は精油王国だ」と言われたこともあります。そして精油を対象とした場合、林業も重要なパートナーとなり、農林一体での取り組みが可能となります。

精油は単体でも販売が可能ですが、「和歌山産の精油」の品ぞろえが増えていくと、商品としての強みは広がります。そして複数の自前の精油が確保できれば、「ブレンド」という技術によって様々なオリジナルの「香り」を生み出すことができます。そこまで進めば「精油王国和歌山」が現実となります。

本プロジェクトではアロマオイルの専門家の参画も得ながら、専門知識を学んでいるところです。精油にチャレンジしたいという地域がありましたら、ぜひ一緒に取り組ませてください。


・パウダーの可能性
パウダーは規格外の農作物を乾燥・粉砕すればどのような農作物でも作ることができるので、既に取り組まれている地域も存在すると思います。しかしパウダーの販売量を増やしていこうとすると、二次加工で使ってくれるビジネスパートナーを複数開拓していかなければなりません。

パウダーの種類を増やしていくことが、どの程度相乗効果につながるかは、精油ほどには期待できないかもしれませんが、お互いの販路をシェアしながら、合同で販路拡大を進めることには大きな意義があると思います。


・加工設備の共有化
本プロジェクトでは、青みかんの一次加工は外部企業に委託する形(外注)で進めます。また、どのような一次加工品を得たいかによって、外注先も様々な選択肢が生まれるので、そのような情報をシェアしながら、最も有効な加工ラインを構築していきましょう。

そして一定量の加工が望めるようになったなら、ある外注先と更なるパートナーシップの関係を構築していくことや、共同の加工施設を県内に持つことも夢ではないと思います。



以上で示したアイデア以外にも、個々の現場を持つ皆さんと議論を重ねることで、更なるアイデアが生み出されるでしょうし、和歌山県内の様々な地域で新たなワクワクが創出され、元気な和歌山に少しでも貢献していきたいと心から願います。


〇最後に(ご協力のお願い)

このプロジェクトが成功するかどうかは「人次第」です。プランAとして述べましたが、私たちとともに活動してくれる「研修生」を現在募集しています。

もちろん「みかん農家になりたい」という明確な目的を持った人は大歓迎ですが、まずは柑橘栽培に関する技術や知識を学びたい、といった短期(1年程度)の研修生も受け入れていく予定です。皆さんの周りにそのような希望を持った人がいましたら、ぜひこのプロジェクトの存在をお伝えください。ご協力よろしくお願いします。


森 賢三 のプロフィール
1960年 和歌山県下津町のみかん農家に生まれる。
大学卒業後、環境問題や地域活性化のコンサルタントとして全国で活動する。
2010年にUターンで和歌山に戻り、みかん農家として今日に至る。
みかん栽培は自然農と慣行農(減農栽培)の二足のわらじで取り組む。
みかんのもりプロジェクト 代表
マルコ柑橘出荷組合 組合長(2019~)
下津蔵出しみかんシステム日本農業遺産推進協議委員(2018~)
著書
『地域再生の処方箋 ~スピリチュアル地域学~』(文芸社、2009年)絶版
『農から学ぶ哲学』(文芸社、2017年)
『農から学ぶ「私」の見つけ方』(文芸社、2020年)
『農哲流コロナ後の世界再生論』(文芸社、2021年) など

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