2月18日に日本消費者連盟のオンライン連続講座『今だから知ってほしい遺伝子組み換え・ゲノム編集食品の真実』第3回がありました。
テーマ: 「ゲノム操作食品の開発状況 次に狙われるのは?」
講師: 天笠啓祐(ジャーナリスト)、原英二(日本消費者連盟)
どうして『今だから知ってほしい』のでしょうか?
それは、世界で初めて、日本でゲノム編集食品が市場に流通し始めたから。そして、ゲノム編集食品は嫌だと思っていても、知らずに食べてしまう可能性があるからです。
【ゲノム編集食品の現状】
まず、国の検討委員会の委員はほとんどが推進派の学者であり、反対や懸念を表明する人がほとんどいないという現実があります。
① ゲノム編集はDNA上の特定の塩基配列(ゲノム)を狙い撃ちして壊すだけなので、他の影響は生じない
② 自然界でも突然変異が生じる。放射線によって遺伝子が壊れることを利用した「突然変異育種」という従来の手法がある。そのように開発された種とゲノム編集種の区別がつかない。
と推進側は主張していますが、実際はそうではありません。
まず、「特定のゲノムを狙い撃ちして壊す」と言いますが、現実にはオフターゲット(特定したゲノムとは違う別の遺伝子を破壊してしまうこと)が生じることがあります。これが一番の問題です。
また、一つの遺伝子が複数の役割を果たしているかもしれないので、ターゲットを間違いなく破壊したとしても、どういう結果が生じるかはわかりません。
自然界で起きている遺伝子の損傷のほとんどは自己修復されますが、ゲノム編集の場合はターゲットに類似した遺伝子が全て破壊されます。ですので、ゲノム編集で作ったものと②の「突然変異育種」とはそれぞれの全ゲノム解析によって区別が可能です。
【ゲノム編集と遺伝子組み換えの違い】
DNAの中の特定の遺伝子(塩基配列)を破壊するのがゲノム編集、DNAに外来の遺伝子を組み込むのが遺伝子組み換えです。ゲノム編集の方が外部から別の種の遺伝子が入らないので安全だとされていますが、破壊する遺伝子の数は遺伝子組み換えよりも多くなります。
【現在流通しているゲノム編集食品】
① 高GABAトマト
筑波大学の江面教授らが設立したサナテックシード株式会社が開発
シシリアンルージュ・ハイギャバが2021年春より流通開始
苗の無料配布で市民権を得ようとしている
② 可食部増量マダイ
リージョナルフィッシュ株式会社が開発
可食部が1.2~1.6倍、飼料利用効率は14%改善をうたっている
2021年9月に流通開始
③ 高成長トラフグ
リージョナルフィッシュ株式会社が開発(京都府宮津市で養殖)
成長速度が通常の1.9倍
2021年10月「22世紀ふぐ」という名前で流通開始
宮津市のふるさと納税の返礼品になっている
<ニュースクリップ>
回転寿司のスシローはリージョナルフィッシュ株式会社と連携すると発表しました。
https://maonline.jp/articles/sushiro_kurazushi20211113
現時点は以上の3種だけですが、他にも多数の品目の研究が行われています。九州大学ではマサバや養殖飼料用のカタクチイワシが、徳島大学では昆虫食用のコオロギが研究されています。他にも、稲(4種)、小麦(3)、大麦(2)、トウモロコシ(2)、ソバ(1)、ジャガイモ(2)、ナタネ(1)、キャベツ(1)、ロメインレタス(1)、マッシュルーム(1)、豚(1)、牛(1)、鶏卵(2)、ブルーギル(1)、マグロ(2)、クロマグロ(1)、ユーグレナ(藻)が研究されています。
これらのものも、いつ流通を始めるかわかりません。届け出も必須ではありませんし、表示義務もありません。安全性の調査は無く、詳しい情報は企業秘密とされ公開されません。
ゲノム編集に関わる研究数では1位がアメリカ、2位が中国、3位がドイツで日本は4位です。5位フランス、6位イギリス、7位イスラエル、8位チリと続きます。先進国に限らず広く行われています。
ただし、EUではゲノム編集食品は遺伝子組み換えと同様とみなしています。
【食品以外の分野でも進んでいる遺伝子操作】
エネルギー、工業製品では、バイオガソリン、バイオマスプラスチック、バイオジェット燃料などがあります。トウモロコシ、サトウキビ、トウゴマ、藻などから作られる燃料、プラスチック。トウモロコシやサトウキビは飼料との競合で飼料代の高騰が懸念されます。食用にならないトウゴマは東南アジアを中心に栽培が広がっています。樹木では無花粉のスギ、高リグニンや低リグニン(リグニンは繊維)の樹木品種が開発されています。中でも、最も進んでいるのが医療分野でしょう。
① ノックアウトマウス
意図的に遺伝子を破壊して特定の病気や障害を作り出した実験用マウス
デュポンマウスは初めての動物特許
② 遺伝子医療
あらゆる動物で遺伝子解析が進みました。
ゲノム解析から診断技術に進み、さらに遺伝子治療へと進んでいます。
(1) 胚性幹細胞(受精卵から作る ES細胞)
(2) 体性幹細胞(造血細胞など体内の細胞から作る iPS細胞)
iPS細胞は、造血細胞から卵子や胎盤といった妊娠や出産に関わる細胞が作れてしまう技術です。AIとビッグデータの活用と画像診断技術の進歩が基礎になって、あっという間に遺伝子医療が加速しました。そして、この分野で進んでいるのが、臓器移植への転用です。
2021年末には遺伝子操作した豚の心臓の人間への移殖がアメリカで実施されました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB110ML0R10C22A1000000/
ゲノム編集により拒否反応を起こさせなくした人間用の臓器を動物に作らせる研究が行われています。
③ ワクチン
新型コロナワクチン。DNA,RNAを操作した物質が使用されています。
④ 人工合成生命
マイコプラズマは人工合成したDNAで作った生命です
まだ微生物の研究段階ですが、合成生物を作ろうという試みが始まっています。
⑤ ゲノム創薬
個人のゲノムに合わせた薬を作ること。
【その他の分野】
昆虫食用として、成長を速めたコオロギの研究が徳島大学等でなされています。
食用の培養肉(細胞培養により食肉を作る)が研究されています。細胞を培養すると平面で広がって行くので、ミンチはできてもステーキはできません。これを解決するために再生医療技術の応用で立体構造作りが進んでいます。
海洋生物(藻)は代替燃料と食(飼料)用の両面から研究されています。
農業部門では生産力アップ作物(新品種開発)やRNA農薬(害虫や雑草のメッセンジャーRNAに干渉して遺伝子の働きを止める作用をもたらす)の研究があります。
【問題点Q&A】
Q:自然界における交雑の対策はありますか?
A:リージョナルフィッシュ株式会社の回答によれば、養殖は陸上で行っているので、自然界に流出するリスクはありませんということでした(陸上養殖とは>https://regional.fish/farming/)。しかし災害多発国の日本では、養殖施設が破損し流出する可能性が無いとは言い切れません。また、輸送中の事故による流出リスクもあるでしょう。
Q:ゲノム編集食品でガンが増えるかもしれないのはなぜですか?
A:ガンの原因は遺伝子の損傷が最多です。放射線や有害物質などによる損傷の他に、有害なタンパク質による損傷も多いのです。タンパク質はアレルギーも起こしやすいです。他の要因との相乗効果もあり得ます。
Q:専門家から反対の声が起こらないのはなぜ?
A:日本には中立的な研究者がほとんどいません。その理由は、大学が独立行政法人化して、企業から研究費をもらわなければいけなくなってきていること、国がゲノム編集をイノベーション戦略で推進し、誘導していることがあります。
Q:自治体での規制はできるのでしょうか?
A:条例を作れば可能です。ただし国が推進していることなので、禁止は難しいでしょう。条例を作るとすれば、例えば今治市の食と農のまちづくり条例のように、ゲノム編集農産物が生産できないように実質的に規制するやり方は可能だと思います。現在、農水省は有機農業にゲノム編集を認めていないので、有機農業を進めて行くことが有効です。(今治市食と農のまちづくり条例>https://www.city.imabari.ehime.jp/reikishu/reiki_honbun/r059RG00000848.html)
【ご案内】
ご紹介した日本消費者連盟オンライン講座の続編となります。
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◎オンライン連続講座「今だから知ってほしい遺伝子組み換え・ゲノム編集食品の真実・第2弾」
【第4回】 3月18日(金)14:00~16:00
内容:ゲノム編集の神話と現実
講師:印鑰智哉(OKシードプロジェクト事務局長)
【第5回】 4月15日(金)14:00~16:00
内容:ついに主食にも遺伝子操作の魔の手が~コメや小麦が危ない
講師:天笠啓祐(ジャーナリスト)、纐纈美千世(日消連事務局長)
【第6回】 5月20日(金)14:00~16:00
内容:培養肉や昆虫食が食卓に~ゲノム編集とフードテック
講師:天笠啓祐(ジャーナリスト)
◎参加費:各回一般500円、
日本消費者連盟会員と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン個人会員無料
◎参加申込みフォーム:https://forms.gle/Yvz1khGWSaxBN81G6
◎主催:日本消費者連盟・食の安全部会、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
詳細はこちらをご覧ください→https://nishoren.net/event-information/17159