コラム

FFPWコラムvol.3「ゲノム編集食品流通開始と国連食料システムサミット開催」

先週(9月12日~18日)は農林水産業に関する大きな動きが相次ぎました。

① ゲノム編集食品流通開始

 懸念されてきたゲノム編集食品の流通がいよいよ始まりました。

「ゲノム編集」で品種改良のトマト 一般への販売開始 国内初
(NHKニュース 2021年9月15日 17時34分)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210915/k10013259991000.html

遺伝子を自在に操作できる「ゲノム編集」の技術を使って品種改良されたトマトの一般への販売が、15日からインターネットを通じて始まりました。ゲノム編集で品種改良された食品が一般に販売、出荷されるのは国内では初めてです。
(以下文面省略。リンク先もしくは「ゲノム編集トマト」等のキーワード検索によりお読みください。)

ゲノム編集マダイ、食卓へ 1.2倍肉付きよく 養殖の効率化に期待
(朝日新聞デジタル 2021年9月17日 15時08分 配信)
https://www.asahi.com/articles/ASP9K4Q19P9JULBJ00T.html

京都大発のバイオ企業「リージョナルフィッシュ」が17日、ねらった遺伝子を改変するゲノム編集技術を使って肉付きをよくしたマダイを、「ゲノム編集食品」として国に届け出た。厚生労働省のこの日の会議で、安全性の審査は不要と判断された。ゲノム編集食品の届け出は昨年12月、血圧上昇を抑える効果などがあるとされる「GABA(ギャバ)」の蓄積量を通常より約5倍高めたトマトに続いて2例目で、動物性食品では初めて。
(以下文面省略。リンク先もしくは「ゲノム編集マダイ」等のキーワード検索によりお読みください。)

 ゲノム編集について、安田節子氏(食政策センター・ビジョン21代表、「食べ物が劣化する日本」著者)は、以下のように述べておられます。

 ゲノム編集は遺伝子を切断し、その修復ミスを利用する方法なので、開発者は自然界で起きる突然変異と変わらないから規制は不要と主張しています。しかし、ごくまれに起こる自然界の突然変異と、ゲノム編集操作による遺伝子変異は同等ではないのです。ゲノム編集は、自然界では起こりえないほどの頻度で、そして同時に複数の遺伝子に変異を起こさせることができるからです。
 また、ゲノム編集は標的以外の複数の遺伝子を切断してしまう「オフターゲット」作用が避けられません。想定外の遺伝子が消されたりすると、予想外の毒性やアレルギーを引き起こす恐れがあるのです。遺伝子改変による他の遺伝子への影響や、世代を超えて影響を残す恐れもあります。

 このようなものが、安全審査も環境評価も無く、任意の「届出制」で良いはずがありません。
 また、表示義務も無いため、店頭に並んでいても消費者には分からないのです。

② 国連食料システムサミット開催

 国連食料システムサミットが9月23日から開催されますが、世界中の市民組織や科学者たちがボイコットを表明し、国際的抗議活動が広がっています。
 その理由は、このサミットが「大企業優先である」ことが明白だからです。

 このサミットの議長に就任したのはアグネス・カリバタ氏。
 カリバタ氏はビル・ゲイツ氏が作ったAGRA(アフリカ緑の革命同盟)の議長を務めますが、このAGRAはアフリカに遺伝子組み換えやハイブリッド種子、化学肥料、農薬を持ち込むために作られた団体でもあります。
 また、サミットの議題は、世界経済フォーラムやビル・ゲイツ氏、偏りのある学者たちによってあらかじめ決められており、これまで国連といっしょに動いてきた市民組織や学者たちは排除されています。
 食料保障の鍵は精密農業、遺伝子組み換え技術、ビッグデータであると定義されており、アグロエコロジーや有機農業の持続可能性も小農・家族農業が持つ重要な役割も無視されています。
 これらの動きを支えているのが農薬企業連合「CropLife International」です(※参照)。

(※)CropLife International
 2020年10月 国連FAOとのパートナーシップに合意、調印
 構成: バイテク&農薬事業のBASF、Bayer CropScience、Corteva、FMC Corp.、住友化学、Syngenta等
    (関連して、2021年6月には、日本の経団連会長に、住友化学の十倉雅和会長が就任しています)

 日本では2021年5月に慌ただしく『みどりの食料システム戦略』が農林水産省により策定されましたが、その内容と、今回の国連サミットで議論される内容はシンクロしているようです。
 「大企業が進めるアグリビジネスは持続可能ではない」との批判が渦巻く中、いったいどのようなことが議論され、合意されるのでしょうか。注視が必要です。

先週、以下のような記事が時事通信に掲載されました。

農家支援策の87%は有害 日本など名指し 国連報告書
(時事通信 2021年9月14日(火) 22:09配信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021091401127&g=int

【ロンドン時事】
 国連食糧農業機関(FAO)など国連3機関は14日、世界全体で年5400億ドル(約60兆円)に上る農家支援策のうち、87%は価格をゆがめたり環境に悪影響を与えたりして「有害」だとする報告書を公表した。
 こうした政策を維持すれば、持続可能な食料供給を実現できないとして、抜本的な見直しを各国に求めた。
 今月23日に開かれる国連食料システムサミットで議論のたたき台とするのが狙い。日本は支援策が多い国と名指しされており、難しい対応を迫られそうだ。
 有害な支援策と指摘したのは、輸入関税と輸出補助金、特定の農産物生産を後押しする補助金。輸出入に際しての「国境措置」などによって内外価格差を生み出せば、「食料の貿易や生産、消費をゆがめる」ことにつながり、支援を特定品目に絞れば過剰生産や農薬の大量使用を促し、「環境に悪影響を及ぼす」と説明した。報告書は、これらが年4700億ドルに達すると推計。支援策が多い国として、日本のほか、韓国、チェコ、アイスランド、ノルウェーを挙げた。

 この記事に対して、印鑰智哉氏による反論を紹介します。(9/19 9:22 Facebook投稿記事より抜粋)
 要約するとポイントは2つ・・・

① そもそも農家支援なんて日本の場合、ほとんど無い。実は批判のターゲットは別で、輸出補助金のことだ。
 要は輸出促進のために使われる政府の資金のほとんどが環境に有害であるということ。その輸出促進のためのお金は遺伝子組み換え企業(種子と農薬)、化学肥料企業、穀物メジャー(貿易会社)の支援金でもある。このお金を止めることは必要なことだ。でも、それは小農支援とはまったく別である。

② この時事通信の記事で、「日本は支援策が多い国と名指しされており、難しい対応を迫られそうだ」と書かれている。本当か、と思って、報告書を見たが、そのような記述はなかった。確かに貿易の際に価格で優位に立つために生産者に出される補助金は批判されるし、その面での日本政府の支出の割合は大きいことが記されている。でも、EU各国は価格の面での支出は小さいが、一方で農家の戸別収入保障は手厚くしている。日本はそれがほとんどない。
 今や、日本の主食である米すら作れない状況になっている。販売価格が生産価格を大幅に下回っているからだ。このままでは日本は主食すら作れない国になってしまう。食料危機はもうすぐ目の前にある。だからこそ、緊急に本当の農家支援策を繰り出さなければならない時にある。その時にこの見出しはあまりにミスリーディングだろう、というかそれを狙っているのだろうか?

 グローバル大企業優先の政策を今すぐ変えるのは難しく感じますが、印鑰智哉氏が書かれている通り、これこそが私たちの唯一の対抗策になるのでしょう。

 今週23日に国連食料システムサミットが始まる。このサミットは本来の建前は飢餓をなくすことだが、その準備過程はすべて多国籍企業とその利益を守る勢力によってジャックされてしまっている。
(中略)このサミットを日本のマスコミと企業は利用して、さらに企業のための食のシステムを作ろうとしてくるのだろう。それに対抗できるのは地域の食のシステムを作ろうとする市民と食の生産に関わる人びと。今、手を伸ばし合って、食を守れなければ社会は守れない。

▼ 引用及び参考

食料システムを乗っ取ろうとするのは誰か?(印鑰 智哉氏のブログ)
http://blog.rederio.jp/archives/6042

国連食料システムサミット特設ページ(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/FAO/fss.html