インタビュー, Pick-up

FFPW会員インタビューvol.2「宇田川 啓太さん」

FFPW会員の皆さんの声をお届けするコーナー第2回は、田辺市内の有機農家、宇田川啓太さんです。

初めにプロフィールを、そのあと会員のみなさまにお願いしたアンケートの質問を元にお話を伺いました。

茨城県の米農家に生まれました。子どもの頃は、自分も将来米農家になろうと思っていました。

小学生のときに環境問題に関心を持ち始めました。本などで地球環境問題について知ったり、家の前を流れる利根川の匂いが生活環境と関係していることが分かったりしたためです。大学では環境問題に取り組もうと、農学部に入り、生態学や地学などについて学びました。

職業について考えた時、環境アセスメントに関わる仕事なども選択肢としてありましたが、自分が本当にしたいことではないと感じたことや、学生中に全国の農家や海外の農場へ研修に行くなどした経験から、一番自分に合っていると思った農業をしようと思いました。農業の中でも、環境への負荷を考え、有機農業の農家を目指すことにしました。

卒業してから6年間、有機野菜やオーガニックの食材などを扱う大阪の会社で農産物や食品の流通・販売の仕事をしながら、妻の実家のある紀南地方に通い、就農に向けた準備を少しずつ進めていきました。

そして2019年、退職して田辺市で有機農家として就農。

市役所で紹介してもらった有機農家のグループ「田辺印の会」の前会長、溝口博一さんに農地を借り受けました。溝口さんから、今まで全く経験のなかった梅の栽培について教わり、2年後畑を引き継ぎました。現在は、梅を中心に150アールの畑(有機JAS認証取得)を管理。今後はキウイも有機栽培で育て出荷を目指しています。

有機栽培は基本的には単価を事前契約するため、相場に左右されないので売上の目途が立ちやすく、私たち生産者や従業員の生活を保障しやすい点が良いと思います。また、有機の資材を使うほうが体への負担が少ないという話をよく聞きます。大学生の頃、軽い農薬中毒になったことがあります。生姜の土壌消毒の臭いでしんどくなり、自転車でふらふらしながら帰ったのですが、有機の資材ではそのような経験はありません。

逆に、有機栽培で大変なのは、私の畑は、窒素・リン酸・カリウムのうち、リン酸が過剰なのですが、化成肥料ならリン酸が少なめの肥料を選べばいいのですが、有機JASで使用できる肥料は都合がいいものがすぐに見つからないことです。自分で考えて工夫できるのは面白いところでもありますが。

また、梅の収穫中に従業員がハチに刺されることがよくあるのですが、巣を見つけても殺虫系の農薬散布はできませんし、飛ぶハチを見つけたときでも市販の殺虫剤を吹きかけるわけにもいかず……。合成ピレスロイドを含む蚊取線香も使わないようにしています。草刈り後にブトに刺されて顔がボコボコに腫れていることもありますが、これは有機栽培ではなくても皆さんある程度経験しているようです。最近は空調服を着て物理的にある程度防げるようになってきました。

農業で試行錯誤する毎日ですが、楽しみは、2歳と5歳の子どもたちと遊ぶことです。特に繁忙期は家族との時間よりも畑での仕事の時間が長くなりがちなので、可能なかぎり家族との時間を大切にしたいと思っています。

① あなたの思い描く、理想とする地域の未来像を教えてください。

紀南地域は人口に対して農地が多いので、農地を有効に活用できれば地域で必要な農産物の多くを地域内でまかなえると思います。

基幹産業としての梅・みかんは残して、耕作放棄が進む水田などを活用し、家庭菜園や地場向けの多品目生産を増やせば、地域で経済を回すこともできます。

そして、より多くの人が農業に触れる機会を得られれば、地域の人たちの農業への関心が高まり、農業の担い手不足が少しでも解消することに繋がるのでは、と思います。

② その未来に向けて、現状で問題点だと思うところは何ですか?

農地の流動性が弱い点だと思います。新規就農者が農地を使いやすくなるような制度に変えていくことが大事だと思います。

高齢で自分では耕作できなくなった方や、東京や大阪に住んでいる不在地主の方達など、農地を何とかしたいとは思っているがどうすればいいか分からないという方が多いと聞きます。行政も問題は認識していて、農地の担い手への集約を進めていますが、耕作放棄地が増えていくスピードを考えると、より積極的な取り組みが必要だと思います。

農地の利用は所有する農家の責任、という日本の伝統的な考え方が基本にあると、耕作放棄地を生まないようにすることは農家の負担になります。

大学時代に休学してフランスに農業研修に行ったことがありました。そこでは収穫の時期など、人手が必要なときには、地域全体で臨時の農業者を受け入れ、地域の農業を守っているのが印象的でした。日本でも農家だけが農地の維持を考えるのではなく、地域全体で考えていくことが必要だと思います。

③ その問題解決のため、あなた自身が取り組んでいることがあれば教えてください。

今は認定新規就農者(※1)として認定されており、就農期間が終わり自立すれば認定農業者(※2)になり、地域の担い手として農地の斡旋を受けることになります。

私は他県からの移住者なので、着実に実績を積み上げて、地域の方や行政の方と信頼関係を築いていきたいと思っています。そして、今よりも経営規模を広げて、生活基盤をよりしっかりさせていくことが大事だと思っています。

また、梅と平行して地場向けに、古くから地域で作られてきた品目(ワタ、コムギ、ダイズ等)の試験栽培を進めています。

田辺印の会のメンバーとしても今後も活動していきたいと思います。自分の畑の管理だけではなく、会の活動を広げて、耕作放棄地になっているところを有機農業の耕作地にしていくなど、地域や日本の農業の発展に貢献できるように取り組んで行きたいと思います。

※1 認定新規就農者…市町村から法律により規定された青年等就農計画の認定を受けた農業者のこと。資金を借り入れたり、給付金を受給したりすることができる。

※2 認定農業者…法律に基づく農業経営改善計画の市町村の認定を受けた農業経営者・農業生産法人のこと。担い手農業者とも呼ばれる。 経営改善計画は5年間の計画であり、認定を受けて5年経過したら、再度計画を提出し再認定を受けないと認定農業者の資格を失う。